建設業の工事価格は「必要利益」から逆算する
――適正利益を確保する価格算定の方法
工事価格を決める際、「材料費と外注費に一定額を上乗せする」「以前と同じ単価で見積もる」「元請企業が認めそうな金額に合わせる」といった方法を採用していないでしょうか。
このような価格設定では、工事を受注できても、会社を維持するために必要な利益が残らない可能性があります。材料費や労務費が上昇しているにもかかわらず、過去の価格を基準にしていれば、工事件数が増えるほど資金繰りが苦しくなることさえあります。
適正な工事価格を算定するためには、前の記事で解説した「工事原価の見える化」を行ったうえで、会社に必要な粗利益と営業利益から価格を逆算することが重要です。本記事では、その基本的な考え方と計算方法を解説します。
1.利益は会社を継続するための原資である
利益というと、経営者の取り分や余裕資金と考えられがちです。しかし、利益は会社を継続し、将来へ投資するために必要な原資です。
建設業者が安定して事業を続けるためには、次のような支出やリスクに備えなければなりません。
- 車両、工具、機械、事務機器などの更新
- 人材採用、教育、資格取得、賃上げ
- 安全対策、熱中症対策、保険への加入
- 工事管理システムやIT・DXへの投資
- 借入金の返済と金利負担
- 売掛金の回収遅延や貸倒れ
- 事故、施工不良、手直し、受注減少への備え
利益が少なければ、こうした支出を借入金や経営者個人の資金に頼ることになります。必要利益を見込んだ価格を提示することは、過大な利益を求める行為ではなく、品質、安全、雇用を維持するための経営判断です。
2.「粗利益」と「営業利益」の役割を分ける
工事価格を考える際は、粗利益と営業利益の違いを理解する必要があります。
粗利益は、完成工事高から完成工事原価を差し引いた金額です。工事原価には、材料費、自社労務費、外注費、現場経費などが含まれます。
営業利益は、粗利益から販売費及び一般管理費を差し引いた金額です。一般管理費には、役員報酬、事務担当者の給与、本社家賃、通信費、広告費、顧問料など、個々の工事に直接ひも付けにくい会社運営費が含まれます。
したがって、工事ごとの粗利益は、一般管理費を負担したうえで営業利益を残せる水準でなければなりません。「工事原価を下回っていないから大丈夫」ではなく、「会社全体の固定費と目標利益を負担できるか」という視点が必要です。
なお、見積書に一般管理費や諸経費を別項目として記載する場合は、社内計算との二重計上に注意します。どの費用を工事原価へ含め、どの費用を粗利益で回収するのか、社内ルールを統一することが大切です。
3.会社に必要な粗利益率を計算する
目標粗利益率は、「業界では何%が普通か」だけで決めるのではなく、自社の販売費及び一般管理費と目標営業利益から計算します。
たとえば、年間の目標売上高が3億円、販売費及び一般管理費が5,400万円、目標営業利益が1,500万円の場合、必要粗利益額は6,900万円です。
計算例:全社の目標粗利益率
必要粗利益額:5,400万円 + 1,500万円 = 6,900万円
目標粗利益率:6,900万円 ÷ 3億円 = 23%
全社平均で確保すべき粗利益率:23%程度
この会社は、全社平均で少なくとも23%程度の粗利益率を確保しなければ、目標営業利益を達成できません。
ただし、すべての工事を一律23%にする必要はありません。材料費の割合が高い工事、短納期工事、施工条件が不確定な工事、小口工事などは、原価変動や管理負担を考慮して高めに設定します。一方、継続受注が見込め、施工方法が標準化されている工事は、低めの粗利益率でも採算が合う場合があります。重要なのは、工事ごとの違いを認めながら、会社全体では目標粗利益率を確保することです。
4.工事価格を必要利益から逆算する
目標粗利益率が決まれば、次の式で工事価格を算定できます。
たとえば、見込工事原価が800万円、目標粗利益率が20%の場合は、次のようになります。
計算例:目標粗利益率20%
800万円 ÷(1-20%)= 1,000万円
必要工事価格:1,000万円 / 粗利益:200万円
ここで注意したいのが、「原価に20%を上乗せする」計算との違いです。800万円に20%を上乗せすると、工事価格は960万円になります。この場合の粗利益は160万円で、粗利益率は次のとおり約16.7%にしかなりません。
| 算定方法 | 工事価格 | 粗利益額 | 粗利益率 |
|---|---|---|---|
| 粗利益率20%から逆算 | 1,000万円 | 200万円 | 20.0% |
| 原価800万円に20%上乗せ | 960万円 | 160万円 | 約16.7% |
「原価に対する上乗せ率」と「売上高に対する粗利益率」は異なります。目標粗利益率を確保したい場合は、原価を「1-目標粗利益率」で割って価格を逆算します。
5.原価上昇後の値上げ必要額を計算する
価格転嫁では、材料費や労務費の上昇額だけを示すのではなく、原価上昇後も必要な粗利益率を確保できる工事価格を計算します。
たとえば、現在1,000万円で受注している工事の原価が、材料費や労務費の上昇によって800万円から910万円になったとします。目標粗利益率を20%とすると、必要工事価格は次のとおりです。
計算例:原価が800万円から910万円へ上昇
910万円 ÷(1-20%)= 1,137万5,000円
現在価格との差額:137万5,000円
必要な改定率:13.75%
単に増加原価110万円を現在価格へ加えた1,110万円では、粗利益率は約18%に低下します。原価増加分だけでなく、必要な利益水準を維持するという視点が重要です。
また、見積提出から施工までの期間が長い工事では、将来の価格上昇や数量変動も検討します。価格変動リスクをすべて利益に含めるのではなく、見積有効期限を設定する、対象資材が一定率以上変動した場合は協議する、実費精算する項目を設けるなど、契約条件と組み合わせることが有効です。
6.大幅な値引きを前提とした見積慣行を見直す
私自身、設備工事会社に勤務していたとき、大幅な値引きを前提として作成された見積書を目にしたことがあります。メーカーから仕入れる大型機材についても、定価や当初提示額から大幅に値引きされることが、当たり前のようになっていました。
しかし、値引き幅を見込んで最初の価格を水増しすると、どの数字が実際の原価で、どこからが利益なのか分かりにくくなります。見積金額が大きくても、値引き後に本当に必要な利益が残るとは限りません。担当者ごとに水増し率や値引き率が異なれば、会社として価格を管理することも難しくなります。
こうした慣行のなかでも、実際の仕入価格、施工に必要な費用、会社として確保すべき利益を分け、本当の数字を把握する努力が必要です。根拠のある見積りを作るためには、まず値引き前提の価格から離れ、実際原価と必要利益を積み上げ直すことが出発点となります。
見積価格は、工事原価、一般管理費の負担、必要利益を積み上げて算定し、値引きを求められた場合には、単に総額を下げるのではなく条件を調整します。
- 仕様や材料の変更
- 施工範囲の縮小
- 工期や施工時間帯の見直し
- 材料の支給への変更
- 運搬費や廃材処分費の別途計上
- 支払条件や発注ロットの見直し
国土交通省も、建設工事の見積りにおいて、労務費、材料費、法定福利費、安全衛生経費などを内訳明示するための様式例や書き方ガイドを公表しています。価格の根拠を分けて示せば、発注者もどの条件を調整すれば総額を抑えられるか判断しやすくなります。
7.必要利益額と利益率を工事リスクに応じて考える
価格算定では、「必要な利益額」と「必要な利益率」の両方を見る必要があります。利益率だけで判断すると、工事規模による違いを見落とします。反対に、利益額だけで判断すると、工事に伴うリスクに対して十分な余裕があるか分かりません。
リスクが小さい工事だから利益率も低くてよいとは限りません。手頃な規模で、何度も経験している工事は、作業方法が標準化され、手戻りやロスも少ないため、むしろ高い利益率を確保できることがあります。こうした工事は、会社の安定収益を支える大切な仕事です。
一方、初めて扱う工法、施工条件が不確定な現場、工程変更の可能性が高い工事など、挑戦的でリスクの大きい工事を低い利益率で受注すると、少しの失敗や手直しで利益がなくなります。高リスク工事では、想定される追加人員、手待ち、再施工などを原価へ織り込み、リスクを吸収できる利益率を確保する必要があります。
ただし、大型工事は入札や相見積りになることが多く、競争上、低い利益率から始まる場合もあります。その際は、受注時点で許容できる最低利益額を確認するとともに、工事全体の採算を継続的に管理します。そして、設計変更、工程変更、追加作業などが実際に発生したときは、その原価だけでなく管理負担と必要利益を含め、正当な金額で請求することが重要です。
当初から不確実な追加工事を見込んで低価格受注するのは危険です。追加・変更内容を記録し、原則として施工前に見積りと承認を得たうえで請求する仕組みを整えます。
全工事を通じて必要利益を把握しておくことが、追加工事を適正な利益率で請求する判断にもつながります。
8.価格算定を社内ルールとして定着させる
担当者によって粗利益率や値引き幅が異なると、同じ内容の工事でも価格がばらつきます。次のような社内ルールを設定しましょう。
- 工種や工事規模ごとの目標粗利益率
- 社内労務単価と主要材料単価の更新時期
- 現場経費、一般管理費、リスク費用の計上方法
- 一定額以上の値引きに対する承認者
- 粗利益率が基準を下回る工事の受注条件
- 完工後に見積原価と実際原価を比較する手順
戦略的に低い利益率で受注する場合も、理由を明確にします。「新規取引先との実績づくり」「若手社員の育成」「閑散期の稼働確保」など、将来の利益につながる目的があるかを確認し、例外が常態化しないよう管理します。
まとめ――工事価格は会社の将来から逆算する
適正な工事価格は、取引先が受け入れそうな金額や過去の単価だけで決めるものではありません。工事原価を把握し、会社運営に必要な一般管理費と目標営業利益を踏まえて算定します。
価格算定の基本手順は、次の6つです。
- 材料費、労務費、外注費、現場経費を積み上げる
- 会社に必要な粗利益額と目標粗利益率を計算する
- 工事原価を「1-目標粗利益率」で割って価格を逆算する
- 必要利益額と利益率の両面から採算を確認する
- 工事の難易度や価格変動リスクを価格と契約条件へ反映する
- 追加・変更工事を適正に請求し、完工後の結果を次の見積りへ反映する
価格転嫁を成功させるためには、「コストが上がったから値上げしたい」だけでなく、「品質と施工体制を維持するには、この価格が必要である」と説明できることが重要です。必要利益から価格を逆算する仕組みが、赤字受注を防ぎ、賃上げや設備投資ができる会社づくりにつながります。
当事務所では、建設業を中心に、工事別原価の整理、目標粗利益率の設定、価格改定額の試算、見積書の見直しなどを支援しています。自社に適した価格算定方法を整えたい場合は、お気軽にご相談ください。
参考となる公的情報
※本記事は一般的な価格算定の考え方を示すものです。実際の原価区分、目標利益率、税務・会計処理は、会社の工種、規模、受注形態などに応じて設定してください。


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